東京地方裁判所 平成4年(行ウ)34号 判決 1996年4月26日
原告
理化学研究所労働組合
右代表者執行委員長
森田浩介
右訴訟代理人弁護士
畑仁
同
池本誠司
被告
中央労働委員会
右代表者会長
萩澤清彦
右指定代理人
川口實
同
田村智行
同
肥後泰司
同
村瀬浩一
被告補助参加人
理化学研究所
右代表者理事長
有馬朗人
右訴訟代理人弁護士
水上益雄
同
柳澤弘士
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が昭和六二年(不再)第四二号不当労働行為再審査申立事件について平成三年一〇月一六日付でなした命令(以下「本件命令」という。)を取り消す。
第二事案の概要
本件は、原告が、被告補助参加人理化学研究所(以下「研究所」という。)の昭和五五年度年末手当についての団体交渉(以下、昭和五五年度年末手当を「本件年末手当」といい、これについての原告と研究所との団体交渉を「本件団体交渉」という。)における交渉態度が、労働組合法(以下「労組法」という。)七条二号の「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。」に該当するとして、本件命令の取消しを求めた事案である。
(争いのない事実)
一 当事者関係
1 研究所
研究所は、肩書地に主たる事務所及び研究施設を置き、東京都内に駒込及び板橋の各分所並びに茨城県内に筑波研究センターを有し、科学技術(人文科学のみに係るものを除く。)に関する試験研究を総合的に行うこと及びその成果を普及することを目的とした政府関係特殊法人(科学技術庁所轄)であり、昭和五五年一二月二五日当時の職員数は六〇四人である。
なお、研究所は、大正六年三月、財団法人理化学研究所として創設され、昭和二三年三月、株式会社科学研究所と改組された。現在の研究所は、昭和三三年一〇月二一日の理化学研究所法(昭和三三年四月二四日法律第八〇号)の制定・施行に伴い、株式会社科学研究所が改組され、設立されたのであり、そして、現在は科学技術庁所轄下の政府関係特殊法人で組織されている二水会及び政府関係特殊法人で組織されている政府関係特殊法人連絡協議会(以下「政法連」という。)に加盟している。
2 原告
原告は、研究所の職員をもって組織された労働組合である。
原告は、昭和二二年九月、財団法人理化学研究所の職員で結成され、同財団が株式会社科学研究所に改組されると同時に科学研究所従業員組合と名称を変更した。その後、同会社が現在の研究所に改組されるに伴い、理化学研究所従業員組合と名称を変更し、さらに、昭和三七年九月、現在の名称に変更し、昭和五五年一二月二五日当時の組合員数は四三〇名であるところ、組合員の中には役職手当が支給される管理職が三九名所属している。
そして、原告は、上部団体である科学技術産業労働組合協議会及び政府関係特殊法人労働組合協議会(以下「政労協」という。)に加盟しており、また、日本原子力研究所労働組合(以下「原研労」という。)、動力炉・核燃料開発労働組合(以下「動燃労」という。)、宇宙開発事業団労働組合(以下「宇宙労」という。)、日本科学技術情報センター労働組合(以下「情セン労」という。)とともに、科学技術産業労働組合協議会(以下「科労協」という。)に加盟しており、科労協加盟の単組は、昭和五五年当時、政労協にも加盟していた。
なお、政府関係特殊法人の職員については、一般民間労働者と同様に、いわゆる労働三法が適用され、その職員によって組織された労働組合には団体交渉権も保障されている。
二 本件命令
原告は、研究所の本件年末手当に関する交渉態度が不当労働行為にあたるとして、埼玉県地方労働委員会(以下「埼玉地労委」という。)に救済を申し立てた(昭和五五年(不)第八号事件)。
埼玉地労委は、昭和六二年七月二三日付で「研究所は、本件年末手当につき閣議了解及び監督官庁の要請に藉口することなく、当事者間の労働事情に留意の上、原告と誠意をもって団体交渉を行わなければならない。原告のその余の申立ては、これを棄却する。」との命令を発した(以下「本件地労委命令」という。)。
本件地労委命令に対し、研究所は、被告に再審査を申し立てたところ(昭和六二年(不再)第四二号事件)、被告は、平成三年一〇月一六日、「本件地労委命令主文第一項を取り消し、原告の救済申立てを棄却する。」との本件命令を発した。
(争点)
研究所のなした本件年末手当についての本件団体交渉の一方的打切りの措置が正当な理由なくしての団体交渉の拒否に該当するか否かにある。
(当事者の主張)
1 原告
原告と研究所との間には、期末手当については従来から同等級同号棒(ママ)の一般職と管理職との間には支給額において大差が生じないようにするという「公平配分」の労使慣行ないしは「無視し得ない実績」があった。ところが、研究所は、本件年末手当についての本件団体交渉においてもこのような労使慣行ないし実績を尊重し、自主的判断に基づいて団体交渉に臨むべきであったにもかかわらず、閣議了解及び監督官庁の要請に藉口して、回答期日や交渉期日を先送りするなどして実質的な交渉に応じず、特に一般職・管理職間の配分問題に至っては全く交渉に応じないまま一方的に交渉を打ち切った。
閣議了解及び監督官庁の要請の趣意とするところは、原告の団体交渉権を実質的に制約するのではなく、また、支給算式の自由な協定を含めた期末手当の自主的決定の仕組みを実質的に制約するものでもなく、単に財政削減の見地から、期末手当の全体的抑制を団体交渉の中で労使双方が配慮して欲しい旨の抽象的な希望を述べたにとどまるのであって、このような期末手当の全体的抑制は、この内容があくまでも団体交渉による自主的決定を前提として、この中で配慮するというにすぎないのであるから、何らかの具体的上限が予定されているものでもないし、さらに、各特殊法人がそれぞれの団体交渉によって自主的に決定することを承認する以上は、特殊法人間の均衡を考慮することや同一歩調をとることは、何ら予定されておらず、ましてや、抑制された財源の範囲内で、特殊法人内部の職員間でこれをどのように配分し、具体的支給額をどのように決定するかについては、一切問題にしていないことは明らかである。それにもかかわらず、研究所は、本件団体交渉を右のように一方的に打ち切ったのであり、このことは、とりもなおさず、研究所が長年定着してきた「公平配分」の労使慣行ないし「無視し得ない実績」を、閣議了解をきっかけにして大きく変更しようとしたのであったから、「公平配分」交渉はより一層重要性を帯びた不可欠の団体交渉事項であった。
以上のとおり、研究所の本件団体交渉における交渉態度は、労働組合法七条二号に該当する不当労働行為であったのに、被告は、以上の点をあえて無視したうえで本件命令をなしたのであるから、違法であることは明らかである。
2 被告
研究所は原告に対し、本件年末手当についての本件団体交渉において、閣議了解及び監督官庁の要請、特殊法人を取り巻く情勢、基準外の支出について厳しい情勢となってきていることなどを説明する一方、特殊法人としての制約、政法連での申合せがある中で、その申合せを超える最終回答をしているのであり、妥結に至るべく努力した。
ところが、この研究所の最終回答に対し、原告は、翌一二月一九日の第七回団体交渉において、新たに、<1>一般職のプラスアルファに一万円を上積みすること、<2>管理職について一般職並みに削減すること、<3>一般職のみ現行の隔週週休二日制を完全週休二日制とすること、<4>将来財政状態が好転した場合は一般職を特に考慮することを確認すること、との四項目の要求(以下「本件四項目要求」という。)を提示し、研究所に検討することを求めた。これに対し、研究所は、<1>のプラス一万円については基準外支出をこれ以上出すことはできない、<2>については従来説明をしてきたとおりでできない、<3>については現在の厳しい状況下では特殊法人の姿勢としてはできない。<4>については責任をもって約束することはできない、と回答し、最終回答での合意を求めたが、原告は、本件四項目要求について再考を求め、結局、研究所と原告とは、対立したままの状態となったのであるから、ここに至り、研究所が交渉の打ち切りを宣言したのはやむを得なかったものといわざるを得ない。
以上のとおり、研究所は、本件年末手当について妥結するため努力して原告に対応したが、原告の要求に応ずることができなかったのであり、これは当時の研究所の置かれていた立場からやむを得なかったものといわざるを得ず、本件年末手当に関する本件団体交渉は、研究所の打切り宣言をもって決裂したものとみるのが相当であり、これを不当労働行為に該当するということはできない。
3 研究所
従来、年末手当については一般職の支給額が管理職のそれに接近したことはあったものの、このことは、一般職について基準外支給、すなわちプラスアルファの支給をしてきた結果であり、原告のいう「公平配分」の慣行が存在していたことによるのではない。
ところで、閣議了解及び監督官庁の要請は妥当なものであり、また、政府関係特殊法人である研究所としてはこれらを尊重しなければならない立場にあるので、これらを尊重した結果、一般職についてのみ本件年末手当が削減されることになったとしてもやむを得ないと考えていた。しかしながら、研究所は、本件年末手当の交渉にあたっては、プラスアルファを一挙になくすことは一般職の生活に与える影響が大きいことを配慮し、同種の他法人とともに関係官庁に働きかけるなどしてプラスアルファの「激変緩和」に向けて最大限の努力をし、国家公務員を上回ることはもとより、同種の他法人と比較しても勝るとも劣らない内容の最終回答を行った。
また、研究所は原告に対し、本件団体交渉の席上で、閣議了解及び監督官庁の要請のほか、特殊法人における各種制約、当時の世論、社会情勢、政法連協議等の諸事情や研究所の回答について十分説明し、原告からの要求が受入れ困難であると判断するや、一二月一八日になされた第六回団体交渉において、この回答が最終回答であり、これ以上の上積みはできない理由も十分述べて原告に理解を求めたが、原告の理解を得ることができなかった。そして、原告の本件四項目要求自体は妥協案とは言えない過大なものであり、研究所の最終回答とは相対立し、これ以上団体交渉を継続しても、交渉を進展させ、打開する余地はなかった。そこで、研究所は、翌一二月一九日の第七回団体交渉において、このような行き詰まり状況と年内支給の事務作業のうえでの時間的限界や予算編成作業などを考慮して団体交渉を打ち切ったのであるから、正当な措置であった。
以上のように、研究所は、本件年末手当についての本件団体交渉において終始誠意をもって団体交渉に臨み、妥結に至るよう最大限の努力し(ママ)ていたのであるから、研究所の交渉態度が不当労働行為に該当する余地はない。
しかも、そもそも本件年末手当については既に支給済みであり、かつ、今後団体交渉を行った結果、仮に上積みがなされたとしても、予算単年度主義により上積み分の支給は不可能であるから、原告には救済の利益もない。
第三当裁判所の判断
一 期末手当について
1 職員の期末手当
(争いのない事実)
職員の給与は、研究所の職員給与規程(以下「給与規程」という。)により定められ、これによると、本給と諸手当とに分かれ、期末手当は諸手当の一つであり、夏期手当、年末手当、年度末手当とに分かれている。
(証拠上の認定事実)
(一) 昭和五五事業年度の予算上にあっては、期末手当は、全職員の給与総額(全職員の本給、家族手当、研究手当、初任給調整手当及び役職手当)に四・九か月分(この数字は公務員に準拠したもの)を乗じ、これに管理職加算分を加える方式により算出され、これが認可されるということとなっていた。(<証拠略>)
研究所は、昭和四八年度以降、人件費の原資は全額国庫補助金であり、研究所の期末手当の基準外の支給部分は、専ら、欠員についての人件費をその財源としていた。(<証拠略>)
したがって、期末手当のための「企業努力」は、実際上は欠員の増加によることにしかなかった。(<証拠略>)
(二) 研究所の職員の期末手当については、各期末手当ごとに研究所と原告とが団体交渉を行っていたが、研究所と原告との交渉に際しては、積算基礎を本給及び家族手当のみを算入するいわゆるB方式と右以外のものをも算入するいわゆるA方式という方式の二つの算定方式が存在していた。(<証拠略>)
(三) 研究所では、期末手当につき、原告との間で何らかの理由により合意に達する見込みが困難な場合や大幅に遅れることが明らかになったときには、「労使交渉の行き詰まりを職員の生活の不安に転嫁することは労使双方とも避けたい」ということから、職員の生活に多大な影響を与えないように、研究所は全職員に対し確定払いとして一方的な支給を行い、原告は組合員をして仮払いもしくは内金として受領させるという、労使暗黙の対応を行ってきた。(<証拠略>)
このように、昭和四三年年度末、昭和四四年度年末、昭和四五年度夏期、昭和四七年年度末、昭和五四年度年末には、右の方法で各手当の支払いがなされた。(<証拠略>)
なお、原告作成の(証拠略)によれば、昭和五五年度年末も同様の方法による支払がなされた旨の記載がある。
2 法令、定款等
本件に関係する法令等は以下のとおりである。
(一) 研究所法(昭和三三年四月二四日法律第八〇号)
(定款)
六条 研究所は、定款をもって次の事項を規定しなければならない。
1)目的 2)名称 3)事務所の所在地 4)資本金、出資及び資産に関する事項 5)役員及び会議に関する事項 6)業務及びその執行に関する事項 7)会計に関する事項 8)公告に関する事項 9)定款の変更に関する事項
2 定款の変更は、内閣総理大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。
(事業年度)
二四条 研究所の事業年度は、毎年四月一日に始まり、翌年三月三一日に終る。
(事業計画、資金計画及び収支予算)
二五条 研究所は、毎事業年度開始前に、その事業年度の事業計画、資金計画及び収支予算を作成し、内閣総理大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
(財務諸表)
二七条 研究所は、毎事業年度、財産目録、貸借対照表及び損益計算書(以下「財務諸表」という。)を作成し、決算完了後二月以内に内閣総理大臣に提出し、その承認を受けなければならない。
2 研究所は、前項の規定により財務諸表を内閣総理大臣に提出するときは、これに収支予算の区分に従い作成した当該事業年度の決算報告書を添附し、並びに財務諸表及び決算報告書に関する監事の意見をつけなければならない。
(監督)
三四条 研究所は、内閣総理大臣が監督する。
2 内閣総理大臣は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、研究所に対して、その業務に関し監督上必要な命令をすることができる。
(科学技術庁長官への委任)
三七条 この法律に規定する内閣総理大臣の権限は、科学技術庁長官に委任することができる。ただし、一二条及び一五条に規定する権限については、この限りでない。
(大蔵大臣との協議)
三八条 内閣総理大臣(前条の規定により委任された場合には、科学技術庁長官。以下同じ。)は、この法律の規定により認可(一二条二項及、一五条三項及び附則二条六項の認可を除く。)若しくは承認(第一六条ただし書の承認を除く。)をしようとするとき、又はこの法律の規定に基き総理府令を定めようとするときは、あらかじめ大蔵大臣と協議しなければならない。
(二) 研究所法施行規則(昭和三三年一〇月二〇日総理府令第八一号)
(業務に関する規程の届出)
六条 研究所は、職制その他組織に関する規程、給与及び退職金に関する規程、旅費に関する規程、発明考案を行った者に対する補償に関する規程、物品の取扱に関する規程その他業務の実施に関する規程を制定し、又はこれらの規程を改廃しようとするときは、その理由及び内容を明らかにして、その実施の日前に科学技術庁長官に届け出なければならない。
(三) 研究所の財務及び会計に関する総理府令(昭和三三年一〇月二〇日総理府令第八二号)
(予算の流用等)
九条 一及び三項略
2 研究所は、収支予算で指定する経費の金額については、科学技術庁長官の承認を受けなければ、流用し、又はこれに予備費を使用することができない。
(四) 研究所定款(昭和三三年九月二六日内閣総理大臣認可)
(争いのない事実)
(会計規程等)
三五条 研究所は、会計並びに給与及び退職手当の支給に関する規程を定めようとするときは、その基本的事項について、科学技術庁長官の承認を受けるものとする。これを変更しようとするときも、同様とする。
(五) 職員給与規程の定め
(争いのない事実)
(期末手当)
二三条一項
期末手当は、六月、一二月及び三月の原則として一五日(以下「支給日」という。)に、それぞれ支給日の属する月の前月末日(以下「基準日」という。)に在職する職員および支給日の属する月の前月一日から支給日の前日までに退職した職員に支給する。
同条二項
期末手当の額は、それぞれ基準日現在または退職時において職員が受けるべき給与月額(次の各号に掲げる職務にある職員にあってはそれぞれ当該各号に定める率を本給月額に乗じて得た額を加算した額)を基礎として国家公務員の例に準じて別に定める基準により計算した額(以下「標準額」という。)を、その者の勤務成績等を勘案して、理事長が定める基準に従って支給する。この場合において支給する期末手当の総額は、前項の職員が、それぞれ基準日現在において受けるべき標準額の総額をこえない範囲内とする。
部長、次長ならびにこれと同等と認められる職で理事長の指定する者一〇〇分の一九
課長ならびにこれと同等と認められる職で理事長の指定する者一〇〇分の一二
同条三項
前二項の職員のうち別に定める者の期末手当に係わる在職期間の通算等に関し必要な事項は別に定める。
なお、科学系特殊法人にも右と同様の規定がある。
(六) 昭和五五事業年度収支予算
(証拠上の認定事実)(<証拠略>)
(流用等の制限)
四条 次に掲げる経費は、府令九条二項に規定する収支予算で指定する経費とし、研究所は、その金額を相互に流用し、この経費の金額を他の経費の金額に流用し、もしくはこの経費の金額に他の経費の金額を流用する時は、あらかじめ科学技術庁長官の承認を受けなければならない。
1 役職員給与のうち役員給与
2 役職員給与のうち職員給与
3 共通経費のうち退職金
4 共通経費のうち福利費
(給与予算等の制限)
六条 研究所は、この予算の範囲内であっても、役職員の定員及び給与をこの予算において予定したところの定員及び給与の基準をこえてみだりに増加し又は支給してはならない。
(七) 研究所補助金交付規則(昭和四四年四月二八日四四振第一〇九九号)(証拠上の認定事実)(<証拠略>)
(交付の対象)
二条 科学技術庁長官は、理化学研究所(以下「研究所」という。)に対し、一般管理運営業務(以下「補助事業」という。)に必要な別表に掲げる経費について補助金を交付する。
別表
役員給与 職員給与 退職金 福利費 厚生費 管理費 交際費 予備費
(計画変更の承認)
一三条 研究所は、六条の規定による補助金交付決定通知書に記載された補助事業に要する経費の配分を変更しようとするときは、あらかじめ、様式第5による補助事業の計画変更承認申請書三通(正本一通及び副本二通)を科学技術庁長官に提出し、その承認を受けなければならない。ただし、役員給与、職員給与、退職金、交際費又は予備費以外の経費であって、配分経費の額の変更が一割未満である場合については、この限りでない。
二 本件団体交渉に至る経緯
1 政府関係特殊法人の期末手当支給等に対する社会的批判
(証拠上の認定事実)(<証拠略>)
昭和五四年九月から一〇月にかけて、政府関係特殊法人の一つである日本鉄道建設公団(以下「鉄建公団」という。)が、いわゆるカラ出張を行っていたことや、国家公務員に準じた期末手当及び勤勉手当(昭和五三年度、年間四・九か月分)のほかに、精励手当〇・八か月分と定額と称するボーナス追加分を全職員に六万九五〇〇円、さらに超過勤務手当が計五〇時間分、以上の合計約三〇万円近くが決算書等に全く表れないプラスアルファのボーナス(いわゆる「ヤミ賞与」)として支給していることが、新聞各紙等によって報道された(いわゆる「鉄建公団不正経理事件」)。
新聞各紙は、鉄建公団の賞与について、「異常に高い」「国家公務員より定年や年金の面で不利な分の埋め合わせという考え方は、定年や年金の官民格差はもともと大きな政治課題であり、税金を原資として、一公団が自由裁量で解決してよい問題ではなく筋が通らない」「賞与の積み上げは団体交渉の正当な成果であるという主張も、ヤミ財源の負担者である国民にとっては素直に納得しがたい」「他の公社公団にも類似の慣行があるといわれる。それが事実かどうか、この際、一〇〇を超す政府関係特殊法人の経理の総点検が必至になろう」等の批判を行った。
大蔵省も、右批判等を受けて、右のプラスアルファは、職員実数と定員分との差の欠員分の人件費を流用したり、厚生年金の雇用者負担分の予算を実際に必要な額より多く計上するなどして、その財源にあてていたことから、その財源となっている人件費の水増し分を全面的にカットする方針を打ち出した。
2 閣議了解
(争いのない事実)
政府は、昭和五四年一〇月二三日、左記のとおり閣議了解を行った。
記
公団等の特殊法人の役職員の賞与の取扱いについて
公団等の特殊法人は、公共的な目的をもって設立されたもので、財政的にも国の出資金、補助金、貸付金等に依存するところが大きく、このような性格にかんがみ、これら特殊法人の役職員の給与については、その支給基準につき、主務大臣の承認又は認可を要する旨、それぞれの設置法において規定される等の措置が講じられており、公団等の特殊法人の職員に対する賞与については、給与の支給基準又は予算において予定されている基準により、国家公務員に準ずるものとして、各法人において決定されてきたところである。
しかしながら、賞与の実状は、国家公務員の水準を相当程度上回るものがかなり見受けられ、国家公務員に準ずるとした本来の趣旨及び現下の経済社会情勢に照らし、決して妥当なものとは認められず、国民世論の厳しい批判を受けている。
ついては、政府としては、この際、公団等の特殊法人の理事者並びに職員及び労働組合に対し、今後における役職員の賞与について、次のように要請する。
役員及び管理職のうち本部の部長相当職以上の職にある者については、国家公務員並に扱うこと。
その他の一般職等については、労使の団体交渉によって決められる場合においても、特殊法人においても、特殊法人の公共性からくる制約、現下の厳しい経済社会情勢及び国民世論の厳しい批判等を十分認識し、かつ、上記役員等に関する取扱いとの均衡にも配慮して、関係者が良識ある態度で交渉に臨み、国民の理解を得られるような結論に到達すること。
3 閣議決定
(争いのない事実)
政府は、昭和五四年一二月二八日、左記の部分を含む閣議決定(昭和五五年度以降の行政改革計画(その1)の実施について)を行った。
記
特殊法人の役職員の給与、退職金の適正化
ア 特殊法人役職員の給与及び退職金について
公団、事業団等特殊法人の役員の給与及び賞与については、国家公務員の指定職と同一の算定式によるものとする。なお、本年度の役員の給与規程の改定は見送ることとする。
イ 特殊法人の職員の給与について
公団、事業団等特殊法人の職員の給与問題については、公務員給与制度等を勘案しつつ、その適正な在り方についての方途を検討し、逐次措置する。なお、本年度の職員の給与改定は、従来よりも厳しく、国家公務員と同一の改定率にとどめるよう措置することとする。
また、職員の賞与については、昭和五四年一〇月二三日閣議了解「公団等の特殊法人の役職員の賞与の取扱いについて」に基づき、当該法人に対し、その是正を強く要請する。
4 閣議了解に対する研究所等の各特殊法人の対応
(証拠上の認定事実)
研究所等の各特殊法人は、昭和五四年一〇月二三日の閣議了解通達及びこれに伴う監督官庁からの国家公務員並みに是正せよとの行政指導に対し、基準外の支出を一挙に抑制して国家公務員並みに是正すると、職員に影響を与え、労働組合も反対していることから政府要請への対応方に苦慮し、政法連において、期末手当の上限を自主的に規制することにより統一的、段階的に是正するという、いわば政府の要請に対する緩和策(以下「激変緩和措置」という。)が検討された。そして、各特殊法人は、昭和五四年一二月期以降、毎年度各期の期末手当については、その都度、官庁など関係方面と折衝し、政法連において毎年度各期の期末手当の上限の申合せが行われた。
右申合せを行った後、政法連は、政労協に申合せに係る上限の回答を行い、以後、これに基づいて各特殊法人は、各単組に回答を行い、それぞれ団体交渉を行ってきた。
このようなことから、昭和五五年度年末手当についても、昭和五五年一一月二七日、政法連は、激変緩和の措置として基準外のプラスアルファの上限を、前年度支給実績のうち、国家公務員の支給率(基準内給与の二・五か月)を超える部分の二分の一を限度とし、上限を基準内給与の二・七か月とする旨の申合せを行った。(<証拠略>)
5 閣議了解に対する科労協の対応
(証拠上の認定事実)(<証拠・人証略>)
科労協は、昭和五四年一一月七日、科学技術庁と昭和五四年度年末手当につき交渉を行った。その際、科学技術庁は、「一〇月二三日の閣議了解のとおりであり、了解にそって取り扱うよう科学技術庁としては関係法人に要請した。労働組合の皆さんにも理解協力を要請する。」「給与規定などによって国家公務員に準ずるということになっているが現状は妥当でない。」「労働協約の締結に基づく予算措置はこのような情勢ではできない。国家公務員より一時金が高いことは納税者にも説明することができない。」「とにかくマスコミなり世論が厳しいことを認識してもらいたい。」と述べたが、科労協は、要請など全く受け入れられないと応答した。
6 閣議了解後の期末手当に関する団体交渉等の経緯等
(争いのない事実)
(一) 昭和五四年度の年末手当及び年度末手当に関する団体交渉等の経緯
(1) 原告は研究所に対し、昭和五四年一一月六日、年末手当についてB方式(本給+家族手当)×〇・四か月+一律五万円+一〇超勤単価を要求した。
(2) 研究所は原告に対し、同月一六日、団体交渉において、閣議了解の文書の写しを交付するとともに、科学技術庁から研究所に対し、期末手当については閣議了解の趣旨に沿って措置するよう要請があったこと、閣議了解の「第一項職員」については国家公務員並みに扱うこと、「第二項職員」についても基本的には国家公務員並みということであること及び予算面からの制約も避けられない旨の説明があったことの説明を行った。
(3) 研究所は原告に対し、同年一二月二一日、年末手当につき次の通りの最終回答を行った。
一般職 (本給+家族手当)×二・八〇八か月+三万七〇〇〇円
これは基準内給与×二・八九か月に相当するもの
副主任等 (本給+家族手当+副主任等手当+本給の二パーセント)×二・五か月
これは、基準内給与×二・四七九か月に相当するもの。
(4) 同月二二日、昭和五五年度予算に関し、いわゆる大蔵原案の内示が研究所になされ、その内容の一つとして定員二〇人(これは約一億円に相当する。)の削減が盛り込まれていた。
(5) 同月二四日、右(3)の最終回答では妥結するに至っていなかったところ、金子書記長と長田総務部長との間で、本給の二か月分を同月二七日に仮払いするとの覚書が交わされた。
(6) 同月二八日、「昭和五五年度以降の行政改革計画(その一)の実施について」の閣議決定がなされた。この中で、特殊法人の職員の給与に関し、「職員の賞与については、昭和五四年一〇月二三日閣議了解『公団等の特殊法人の役職員の賞与の取扱いについて』に基づき、当該法人に対し、その是正を強く要請する。」としていた。
(7) 昭和五五年二月二一日、年度末手当について原告は、次のとおりB方式により要求した。
(本給+家族手当)×一・〇か月+一律三万円+一〇超勤手当
(8) 年度末手当の最終回答は次のとおりであった。
一般職:(本給+家族手当)×〇・五四二か月+二万円
副主任等:(本給+家族手当+本給の二パーセント+副主任等手当)×〇・五か月+一八〇〇円
(9) 同年三月二七日、年末手当及び年度末手当交渉は未妥結の状態であったが、研究所は原告に対し、年末手当に係る仮払い後の差額及び年度末手当をそれぞれ最終回答により同月三一日に支給する旨通知した。この支給について、原告は「仮領収」であると、他方、研究所は「確定払い」であるとそれぞれ主張して合意には至らなかったが、結局、組合員は同年四月七日、差額分及び年度末手当を受領した。
(10) 研究所と原告とは、同年四月二一日の団体交渉において、年末手当及び年度末手当とも右(3)及び(8)の最終回答により妥結した。妥結に際し、一般職のみを対象に一人当たり本給の二・一三パーセントで平均五〇〇〇円に相当する食券を支給することが合意された。これは年末手当の追加分という意味合いをもつものであった。また、次のとおり、西本理事がメモ(以下「西本メモ」という。)を読み上げた。「<1>昭和五五年度夏期一時金については、同五四年度年末手当及び年度末手当交渉の経緯と状況を十分把握し、職員の希望をも考慮して弾力的に配意したい。<2>支給方式は全職員A方式とする。<3>一時金の支給に関し、職員間に不公平感を生じないよう努力する。」
なお、右食券の支給に関して予算運用上の責任問題が生じ、同年五月一七日、役員の一部が引責辞任するという事件が発生した。
(二) 昭和五五年度夏期手当交渉の経緯
(1) 昭和五五年五月一四日、原告は次のとおりA方式により要求した。
(本給+家族手当+特別都市手当+初任給調整手当+本給の一四・五パーセント)×二・五か月+一律五万四〇〇〇円+一二超勤手当
(2) 同年六月一七日の団体交渉において、研究所は次のとおりA方式により最終回答を行った。
一般職 (本給+家族手当+初任給調整手当+本給の二パーセント+本給の一四・五パーセント)×一・九か月+一万円
副主任等 (本給+家族手当+本給の二パーセント+副主任等手当)×一・九か月
同日、この最終回答により妥結したが、妥結に際し、一般職のみを対象に一人当たり約五〇〇〇円の上積みがなされ、同月二五日に支給された。
この上積み分は政法連の協議の線を超えたものであった。
なお、この席で谷田貝執行委員は、研究所に対し、西本メモを昭和五五年度年末手当以降についても適用させるよう求めたが、熊田理事はそれには応えられない旨答えた。
三 本件年末手当に関する本件団体交渉等の経緯
(争いのない事実)
本件団体交渉は、昭和五五年一一月七日の原告側要求書の提出に始まり、同月二一日の第一回団体交渉から同年一二月一九日の第七回団体交渉まで七回の団体交渉が行われたが、第七回団体交渉において研究所が一方的に打切り宣言をしたことにより本件打切りとなった。
1 第一回団体交渉までの経緯
(争いのない事実)
(一) 原告は研究所に対し、昭和五五年一一月七日、本件年末手当の要求書を提出し、この中で原告は、支給算式を職員一律につき、次のとおりのA方式で要求し、回答指定日を同月二〇日午前一一時五〇分とした。
A×三・〇か月+定額一律五万円
A=本給+家族手当+初任給調整手当+都市手当(八パーセント)+食事手当(一律五〇〇〇円)+住宅手当(一律一万円)+一律本給の二〇パーセント
(二) 政労協交渉委員及び各単組代表者は、大蔵省給与課長との間で同月一一日、昭和五五年度年末手当について折衝をもった。この席で給与課長は、「労使交渉をするのは自由だが、公務員並みの水準、つまり『基準内×二・五か月』を要望する。」と述べた。
(三) 研究所は原告に対し、同月二〇日午前一一時四五分、回答指定日時までに回答することは諸般の事情により不可能である旨通知した。
(証拠上の認定事実)(<証拠略>)
原告は、同月一七日、以下の内容の討論資料を作成した。
一一月一一日、一六時から大蔵動員約一〇〇〇名を背景にして、政労協交渉委員及び各単組代表者の一〇名が大蔵省給与課長と折衝した。
「労使交渉するのは自由だが、公務員並みの水準、年末一時金について、基準内×二・五か月を要望する。」との発言があった。急遽、闘争委員会は、この数字について一昨年からの比較検討を行った。
八〇年 予想1 B×二・五か月
予想2 B×二・六五か月+二万円
(予想1 上記発言、予想2 七九年実績と予想1の中間)基準内=本給+家族手当
(二)(ママ) 第一回団体交渉の経緯
(争いのない事実)
研究所と原告との第一回の団体交渉は昭和五五年一一月二一日午前一〇時三〇分から午前一一時二〇分まで行われた。
席上、原告は、「回答指定日までに回答が出されなかったのはなぜか。」と質問した。これに対し、熊田理事は「去年、閣議了解があり、特殊法人の年末一時金について公務員準拠ということが相当強く要請されているわけです。」と述べた。これに対し原告は、ボーナスは労使の交渉で決める問題である旨主張したところ、大沢総務部長は、「それは分かっています。ただ、研究所側としては監督官庁の監督権に基づく行政指導その他の要請については尊重せざるを得ない立場にあるわけです。」と述べた。これに対し、原告がそれをもって団体交渉を拒否することはできない旨主張したところ、大沢総務部長は、「団体交渉を拒否するとは言っていないでしょう。」「研究所側の立場で言っているわけです。研究所として自主的な判断をすることがいろいろな事情から難しい面があるということを申し上げているだけです。」と述べた。
また、原告は、「ボーナスぐらいは公平に気持ちよくというものが昔からあったからこそ労使関係が混乱しているときでもボーナスについてだけは交渉でまとめてきたのであるから、今回も公平にということで交渉しよう。」と主張したところ、熊田理事は、「我々はなにも差を拡大しようと思っているわけではないのです。」と述べ、また、大沢総務部長は、「要するに、現在は枠の問題を検討しているところです。」と述べた。
原告が、支給方式その他については「公平配分の精神」が盛られていなければならない旨主張したところ、杉本総務部次長は、「原告の主張する公平配分という議論については去年からずっと行っているので、また改めて議論しましょう。こちらの考え方も説明します。」と述べた。
結局、この日の交渉では回答が出されず、原告は、「ストライキ宣言」と題する書面(<証拠略>)を研究所に交付したうえ、ストライキを行う旨通告し、退席した。
(証拠上の認定事実)
原告が研究所に提出した右「ストライキ宣言」と題する書面には次のような記載がある。(<証拠略>)
「昨年、鉄建公団の不正経理事件を契機に、一〇・二三閣議了解と一二・二八の閣議決定をたてに、「団体交渉によって決められる場合においても、特殊法人公共性からくる制約、厳しい社会情勢及び国民世論の厳しい批判等を十分認識し‥‥国民の理解が得られるような結論に到達すること」と「公務員並み」の水準を押しつけてきた。」「大蔵省は、「基準内×二・五か月」とわれわれの生活を無視した内容で、労使交渉に不当に介入し、われわれの自主交渉権を侵害している。再三にわたる大蔵行動と交渉にもかかわらず、「公務員並み」に言及するだけで…」そして、原告は、同日午後、政労協の統一ストということで、二時間の全面ストライキを実施した。
3 第二回団体交渉の経緯
(争いのない事実)
研究所と原告との第二回の団体交渉は同月二八日午後二時から午後二時一五分まで行われた。
研究所は、一般職については「基準内給与の二・六五か月」との回答を行い、管理職については現在検討中であるとして回答を行わなかった。原告は、基準内給与の二・六五か月という回答の根拠は何かと質問したところ、熊田理事は、「閣議了解に基づいて国家公務員準拠二・五か月という要請が重ねてきている。しかし、我々としては、最大限の努力をして二・六五か月にしたい。」と述べた。また、杉本総務部次長は、「閣議了解の趣旨は『二項職員』にある。『二項職員』については基本的には国家公務員並み、すなわち、今回は二・五か月という要請がある。」と述べた。
熊田理事及び大沢総務部長は、前記の回答が、支給方式がなく、また、管理職分の回答がないことから、不完全な回答であることは承知している旨述べた。
原告は、右回答は回答とは認めないと述べ、退席した。
4 第三回団体交渉までの経緯
(証拠上の認定事実)(<証拠・人証略>)
各特殊法人は、同年一一月二八日以降、それぞれの労働組合に対し回答を行った。建設省関係法人は、前年の年末手当が「(基準内給与)×一・〇二×二・九か月」であったことから、「二・七か月」を上限として回答した。
他方、科学技術庁関係法人は、前年のそれが「(基準内給与)×一・〇二×二・八から二・八三か月」であったこともあり、「二・六五か月」の範囲内で回答を行った。
5 第三回団体交渉の経緯
(争いのない事実)
研究所と原告との第三回の団体交渉は同年一二月二日午後二時から午後五時三〇分まで行われた。
研究所は、右団体交渉において、左記のとおり回答した(以下、この回答を「第一次回答」という。)。
記
一般職 (本給+家族手当)×二・六五か月+三万〇五〇〇円
副主任等 (本給+家族手当+本給の二パーセント+副主任等手当)×二・五か月
(注)<1> 研究所の期末手当については給与規程上及び認可予算上定めがあり、積算基礎は基準内給与であり、年末手当の場合、基準内給与×二・五か月が認められている。
<2> 本回答は、一般職は基準内給与×二・七〇三か月(一・〇二か月×二・六五か月)となるもので、副主任等は基準内給与×二・四七九か月である。
<3> 本回答による一般職の平均支給額は六七万九一七〇円となるもので、そのうち基準外支給、いわゆるプラスアルファは五万一〇六五円である。
原告は、右回答に対し、「一般職についてもA方式で要求したにもかかわらず、回答がB方式なのはなぜか。」と質問をした。これに対し、熊田理事は、<1>要求どおりの方式で必ず答えなければならない必要はないこと、<2>プラスアルファでいろいろと算入されるA方式は将来にわたっても採用しがたい社会情勢であること、<3>昭和五五年度夏期手当については特別な事情があったためA方式を採用したが、昭和五四年度の夏期手当及び年末手当についてはB方式を採用したという実績があることを理由として述べた。
右熊田理事の説明に対し、原告は、「それでは全員(管理職についても)B方式にしましょう。」との提案をなしたが、熊田理事は、管理職についてB方式を採用すると役職手当を算入し得なくなってしまうので応じられない旨述べた。
交渉は原告側交渉員の交渉態度をめぐって紛糾し一時中断したが、再開後、原告は、一般職についてA方式が採用できない理由の説明を改めて求めた。これについて、大沢総務部長は、「客観情勢の変化」をあげ、さらに、客観情勢の変化について、「それは言ってみれば、やはり閣議了解が出て、ある程度基準外の支出について厳しい情勢になってきているということです。」と述べた。
右大沢総務部長の説明に対し、原告は、「閣議了解をそのまま押しつけるのですか。」「閣議了解のどこにそういうことが書いてありますか。」と追及した。これに対し、杉本総務部長は、「今回の回答については、だからといってプラスアルファを一挙にゼロにするというわけにはいかんという、これは研究所側の努力だと思いますけれども。」と述べた。また、熊田理事は、研究所としては、最大努力して、これだということであってね。妥当だということから言うと今のようにね、皆さんのお気には召さんかもしれないけれども、二・五というのが妥当だという線なんですよね。そこからさらに努力したということなんですよ。」「研究所側は今、最大限の努力をしたということで妥当だと、こういうことです。」と述べた。
熊田理事の「最大限の努力をした。」との右発言に対し、原告は、「努力」の具体的な内容を説明するよう求めたところ、熊田理事は、「そこまでは申し上げられません。」「今、努力をしているが、その内容をいちいち言えといわれても申し上げられません。」と述べ、これに応じなかった。
以上のような研究所の説明に対し、原告は、「公務員の二・五か月云々というが、公務員と違って我々には恩給もないし、いろいろな面で労働条件が低いわけです。したがって、ボーナスだけは公務員並みの二・五か月という話はないと思う。研究所ができるときも、優秀な人材を集めるといった目的で特別な附帯決議もあった。それは研究所側の人達ですから当然よく知っていると思うのですが。」「ボーナスでも何でも我々は公務員と違って労使の話合いで決めるのが原則なのです。その原則が変わったわけではないでしょう。」との質問をした。これについて熊田理事は、前者については「それはあったのでしょうが、今は少し時代が変わってきた。」また、後者については「話合いの原則は変わらないでしょう。しかし、出るか出ないかは周りの情勢に係ってくる。」と述べた。
回答時期に関し、原告は、「同種の他法人と同じような回答を出すのに、このように遅くなっていながら誠意があったとは言えないでしょう。この回答ならどこでも一一月二八日に出ています。」「現時点で何を考えているのですか。もう少し上乗せするとか何とかできないのですか。引き延ばしているのですか。」との質問をした。これに対し、熊田理事は、「引き延ばしではないです。できる限りの回答をしている。」と述べた。また、「一二月五日は協定上、年末手当の支給日となっているが、これについてどう考えますか。」との原告の質問に対し、杉本総務部次長は、「支給に努力するという協定は確かにある。しかし、特殊法人を取り巻く情勢は今、厳しいわけですから。」と述べた。
回答時期及び内容に関し、原告は、「なぜ政労協の他の法人よりも低くて、しかも回答が四日も遅れているという事態になるのですか。先頭を切って、例えば二・七五か月とかいうところまで回答しているのであれば話は分かります。しかるに一番遅く、しかも一番低い回答で『やってます。』もないでしょう。」、「その理由を我々交渉員から組合員に伝えなければならないので、よく説明してください。」と追及した。これに対し、大沢総務部長は、今日はこれ以上の説明は考えつかないから、いろいろ言われたこともまた検討しましょう。今日は時間の予定もあるので終わらしてもらいたい。」と述べた。
次回の交渉日時について、原告は、「一二月四日午後二時から」と提案したが、結局、決まらないままこの日の交渉は終了した。
(証拠上の認定事実)(<証拠略>)
研究所の原告に対する第一次回答は、「昭和五五年度年末手当」と題する書面によってなされたのであるが、この書面の前文には次のとおりの記載がなされている。
理労発二四七四号標記に関する要求書については、研究所として鋭意検討を行ってきたが、一一月二八日の団体交渉において、一般職については基準内の二・六五月という回答を行ったものである。研究所として支給方式を含め更に検討の結果、下記の範囲で支給することを回答する。本回答は、特殊法人をとりまく厳しい情勢の中で、研究所として一般職について今回激変緩和措置をとる努力を最大限にしたものであることを付記する。なお、特殊法人の期末手当に関する昭和五四年一〇月二三日の閣議了解については、労使双方に対し要請のあったことは原告も承知のとおりである。
6 第四回団体交渉までの経緯
(一) 当時の科学技術庁関係法人の回答状況は、科労協の機関紙によると、日本科学技術情報センターは、「回答なし」、宇宙開発事業団、動力炉・核燃料開発事業団及び日本原理力研究所は、研究所の回答と同様、いずれも「(基準内給与×一・〇二×二・六五か月)」となっていた。(争いがない)
これらの回答後、科労協傘下の各単組は、それぞれの法人に対し、建設省関係法人並みの二・七月の水準に引き上げるよう要求した。(争いがない)
(二) 原告は、同年一二月三日、以下の内容のビラを作成した。(<証拠略>)
「団交決裂!本日よりロータリースト突入!昼休み座り込み闘争更に強化!闘争委員会は、満場一致で、労金よりのつなぎ資金を決定!」「(研究所の回答を)基準内にみてみると、一般職は基準内給与×二・七〇三月(一・〇二×二・六五月)である。政労協他単組は全て一・〇二×二・七〇であり、相変わらず政労協内最低であった。」
(三) 政労協は、同年一二月五日、以下の内容の記載がある「政労協」という機関紙を発行した。(<証拠略>)
「一一月二八日の年末一時金回答は、またしても、昨年実績と国家公務員の二・五か月の差を二で割った二・七か月という切り下げ回答であった。政労協は、同日、闘争委員会と各単組代表者会議を開き、この切下げ回答に対して、さらに闘争を強化していくことを確認するとともに、抗議声明を発表した。」
(四) 研究所と原告の第四回団体交渉の交渉日については、同年一二月五日と設定されていたが、研究所の「二水会へ出席するため」という都合により延期された。(争いがない)
そこで、研究所と原告とは、事務折衝を開き、研究所は原告に年末手当についての基礎データを交付した。(<証拠略>)
7 第四回団体交渉の経緯
(争いのない事実)
研究所と原告との第四回の団体交渉は、同年一二月九日午後二時から午後四時まで行われた。
大沢理事は、同月八日付で総務部長から昇格し、労務担当となった。大沢理事は、交渉開始後間もなく、「今日は残念ながら前進の回答ができません。もう少し何日か努力の機会を与えてもらいたいと思います。」と述べた。
原告は、研究所が具体的にどのような努力をしているのかの説明を求めた。これに対し、大沢理事は、「少なくとも科学技術庁の調査官段階で済ましているということではありません。」と述べた。
原告は、「管理職については昨年と全く同じであるのに一般職だけが削減されるのはなぜか。」と質問したのに対し、大沢理事は、「一般職についてはある程度プラスアルファが加算されたという実情があったことは私もよく知っています。ただ、これについては、基準内の何か月という線で厳しく要請されている事情があるのです。」と述べた。これに対し、原告は、「内部の配分についてまで監督官庁からそのような指示がきているのですか。」との質問をしたところ、大沢理事は、「内部の配分についてまでは指示されていないですけれど。」と述べた。
原告は、削減の問題と公平配分の問題とが重要であり、特に後者の問題さえ要求が満たされれば前者については柔軟に対応する用意があること及びボーナスについては一般職と管理職とは公平に配分してきた旨強調した上で、環境が厳しくなったときはまず管理職から削減するのが社会通念である旨述べ、これらについての研究所の考え方を説明するよう求めた。これについて、大沢理事は、「私も理事に昨日なったばかりだから、その辺に対する明確な回答は次回の団交で行いたいと思います。」と述べ、説明しなかった。
そこで、原告は、「この(一二月)九日という日を考えれば、毎日団交をやって、早く話を詰めなくては仕方がないと思っている。」と述べ、団体交渉の今後の日程について早急に決めるよう求めたが、大沢理事は、「私だけで勝手に判断するわけにはいかない。」「研究所自体としては私が判断して決めてもかまわないと思っているが、私自身としてある程度動いた結果どうなるかということも考えなければならないので、すぐにというわけにはいかない。」と述べた。これに対し、原告が「先程から、研究所としての判断とほかという話があるが、これはほかと連係して動いているということなのですか。」との質問をしたところ、大沢理事は、「私の方としては単独で方々で動いています。しかし、実際にほかでも同じような動きがあればやはりその方が強力ではないかと思います。」と述べた。
ここで一般職だけが削減されるということが再び論点となり、原告がその理由の説明を求めたところ、杉本総務部次長は、「実際に、重ねての要請があることは事実です。基準外支出の是正ということです。」、また、「何が基準外か。」との原告の問いに対しては、「給与規程上及び予算上、期末手当というのは基準内給与の何か月と、公務員は年間四・九か月ということになっています。」と述べた。
原告は、部長及び主任研究員等が在級する七等級の現員現給表の提示を求めたが、藤原総務部調査役は、「従来出していません。」「七等級は組合員のいないところではないですか。しかも、原告に分かるようなデータを既に出しているわけです。」と述べ、要求に応じなかった。
この日の交渉は、「今日はこれからまた中央に行かなければならない用事もあるから。」との大沢理事の発言を機に終了したが、終了間際に、原告は、「要するに再三理事に言っているように、削減反対と公平配分ということをきちんと踏まえてそれなりの回答をしてください。」と要望した。
8 第五回団体交渉までの経緯
(一) 政労協と大蔵省との間で同年一二月一一日折衝がもたれ、この席で大蔵省の給与課長は、「年間四・九か月、年末手当二・五か月以外は考えていない。」と述べた。(争いがない)
(二) 政労協は、同日、単組代表者会議を開催し、昭和五五年度年末手当については、右大蔵省との折衝と同月一二日の統一行動をもって、すでに各法人から各単組に出されていた「(基準内給与)×一・〇二×二・七月」を上限とする回答で妥結規制を解除することを決めた。これに関して、翌一二日原告は、組合ニュースを組合員らに配布し、この中で、政労協と大蔵省との折衝において大蔵省が右のとおり述べたと記載するとともに、一一日開催された科労協単組代表者会議で、<1>政労協水準に達しない場合は妥結しない(越年)、<2>配分闘争を強化する、<3>妥結する場合は各単組の了解を得る、との方針を決定した旨発表した。(争いがない)
(三) 研究所と原告との第五回団体交渉の交渉日ついては同月一二日と設定されていたが、「二水会へ出席するため」という研究所の都合により延期された。(争いがない)
(四) 同日、科学技術庁関係法人による二水会が開催され、席上、労使交渉についての情報交換が行われ、協議の結果、科学グループとしても「二・七月」の回答に努力すべく更に政法連、官庁等に働きかけることを申し合わせた。(<証拠・人証略>)
(五) 原告は、同日、以下の記載があるビラを作成した。(<証拠略>)
「昨日の大蔵抗議集会及び本日政労協三三単組ストライキ突入をもって政労協の年末一時金の最後の統一闘争と位置づけるということが、一一日の単代会議で決定した。大蔵交渉は四時三〇分から四〇分間にわたり給与課長ともったが、唯々ひたすらに年間四・九、年末二・五以外は考えていない、の一点ばりだった。その後行われた科労協単代会議で次の方針を決定した。<1>政労協水準に達しない場合は妥協(ママ)しない。(越年)<2>配分闘争を強化する。<3>妥結する場合は各単組の了解を得る。政労協各単組各共闘は、<1>各法人理事者の責任において上積みさせる、<2>今後の切り下げはさせない、との闘争を強めて行くが、最低である科学は一層の困難な闘争を進めて行かなければならない。」
研究所は、右ビラから政労協水準になれば、本件年末手当について原告と妥結できると判断し、政労協水準に向けて努力することとなった。(<証拠略>)
(六) 原告は、同月一六日、以下の内容のビラを作成した。(<証拠略>)
「本日団交」「昼休み座り込み闘争を強化し、不誠実な研究所当局を追いつめよう!」「組合員の皆さん。今日は一二月一六日です。年内支給のためには、実質的にはあと数日しかありません。研究所はこれだけ待たせて中途半端な回答をしてきたら年内支給は非常に難しいです。皆さんの一層の闘争参加によって、この闘いを有利に導こう!」
9 第五回団体交渉の経緯
(争いのない事実)
研究所と原告との第五回の団体交渉は同月一六日午前一一時から午後〇時二八分まで行われた。
冒頭、大沢理事は、「我々の方としては、この段階で客観情勢を踏まえながら、支給率の問題ということで強い要請がきているので、努力をしてきたのですが、本日は前回同様、前進的な回答ができません。」と述べた。
これに対し原告は、具体的にどういう努力をしたのか説明をするように求めたが、大沢理事は、「努力内容をいちいち細かに説明するわけにはいきません。」と述べた。
原告は、「ほかの云々という話はそれなりに我々も我々のルートを通して少しは耳に入ってきているが、研究所独自でできる回答をなぜ今日出さないのですか。公平配分というものについて。この長い間の慣行はまさに研究所独自の問題でしょう。だから、それについて答えてこそ努力したという誠意の現れだと思います。」と主張したところ、大沢理事は、「我々の方としては、結局、期末手当に関して二つのことがあることはよく知っています。一つは支給率の問題であり、もう一つは原告のいう公平配分の問題だろうということはよく分かっています。しかし、公平配分については原告側から具体的にどうしろということを私共はまだ聞いていないので、ある程度推測で判断せざるを得ないが、少なくとも現段階の判断としては、管理職と一般職を同等にするように一般職に対してプラスアルファを増額しろということならばそれはできないのではないかと思っています。」と述べた。そして、「一般職だけが削減されるのはなぜか。」との原告の問いに対し、大沢理事は、「役職者には従来基準外の支出がなかったが、一般職には基準外の支出があった。そして、基準外の支出については、これを慎めという強い要請がきているという事態が発生していると答えざるを得ません。」と述べた。これに対し原告は、削減云々といってもそれは予算上の枠としては一般職も管理職も同じであるから、その枠の中での配分交渉の問題である旨主張した。これについて、大沢理事は、「それについての最終的な判断は今日の段階では難しいことだと言っているわけだが、もう一回理事会にも諮った上でお話したい。」と述べた。
杉本総務部次長は、削減及び公平配分の問題に関し、「我々の理解としては従来管理職に対してはほぼ支給基準の範囲内で支給してきたと思っていますから、一般職にプラスアルファを付けてくればだんだん管理職に接近してくるのは事実です。一方は支給基準の範囲内でやっているわけですから。実際問題として今、問題となっているのはプラスアルファの是正なのですから。そのプラスアルファが減額されれば差というのは当然に結果的に開いてくるのではないですか。」「一応、管理職、一般職とも支給基準というのはあるわけですから、それを最小限保障しようという考え方は変わらないと思います。」と述べた。さらに原告が支給基準の根拠はなにかと問うと、大沢理事は、「予算上きちんとした根拠があるのではないですか。」、「予算上の支給基準をともかく守りなさいという要請が監督官庁からきている。」と述べた。
この日の交渉は、大沢理事の「今日の段階は、なお努力するということでお開きにしていただきたいと思います。本当に、まさに年末手当自体についてのいろいろな打ち合わせをしたり、努力するということなので、その点を了承して欲しいと思います。」との発言を機に終了した。
(証拠上の認定事実)(<証拠略>)
右団体交渉における杉本総務部次長の削減及び公平配分に関する発言に続いて、藤原総務部調査役は、「結局、国民の批判が昨年でたのは、要するに支給基準外のものが出ているということが問題となったわけですよ。」と述べた。これに対し、原告は、「あの中には、不正経理として問題となる話と、労使交渉でいろいろやって不正経理といえないにもかかわらず、マスコミの方が中味をよく知らないで攻撃している話とが両方入っているんですよね。そうは思いませんか。」「特殊法人の使用者として、あの話の中にそれぞれ問題があることは分かるはずですよ。確かに不正経理として問題になる面もあります。しかし、そうじゃない面だって沢山あるでしょう。ただ面白おかしく書き立てている話だって。それも一括してそのとおりだというのですか。」と問いかけたが、杉本次長は、「マスコミだけが作り上げた議論じゃないと思いますがね。」と答え、また、大沢理事は、「まあ、批判があったことは事実だけどね。その内容について、いちいち我々の方も詳しく知っているわけじゃないから、それはあなたの言われたように内容的にはいろんなこともあったかもしれませんよ。ただ、批判を受けるようなこともあったことも事実だろうと思うからね。」と答えた。そして、「支給基準って何ですか。」との原告の問いに対し、杉本次長は、「今回については、基準内給与の二・五か月というのが基準だと前から何回も言っていますよ。」「基準内給与の人数分の年間四・九か月分ですか、それが予算として認められているわけですよ。」と答えた。
10 第六回団体交渉までの経緯
(争いのない事実)
原告は、同月一七日、臨時大会を開催し、<1>仮払金交渉はしないこと、<2>組合員への第二次つなぎ資金を検討すること、<3>研究所が一方的に支給してきた場合は労働委員会に不当労働行為の救済申立てを行うことの三項目を決議した(以下「三項目決議」という。)。
(証拠上の認定事実)
動燃は同月一七日、原研、宇宙及び情センは同月一八日、それぞれ二・七か月の回答を行った。(<証拠略>)
原告は、同月一八日、理事室のドアに、「年末手当の切り下げ反対」「つなぎ資金で越年闘争」と記載のあるビラを貼付した。(<証拠略>)
11 第六回団体交渉の経緯
(争いのない事実)
研究所と原告との第六回の団体交渉は同月一八日午後四時から午後八時一〇分まで行われた。
冒頭、原告は研究所に対し、三項目決議について通告し説明した。
研究所は、左記のとおりの回答を行った。この際、大沢理事は、「この回答は、私共としては精一杯努力したものであり、こういう時期ですからこれを最終回答とします。」と述べた。
記
一般職 (本給+家族手当)×二・七か月+三万一一〇〇円
副主任等 一二月二日回答のとおり。
すなわち(本給+家族手当+本給の二パーセント+副主任等手当)×二・五か月
(注) 本回答は、一般職は基準内給与×二・七五四か月(一・〇二×二・七か月)となるもので、平均支給額は六九万二〇〇九円である。なお、副主任等は基準内給与×二・四七九か月である。
支給日は一二月二六日を予定している。
原告は、右回答に対し、「公平配分について回答しないのはなぜか。」と質問した。これに対し、大沢理事は、「前回の回答のとおりというのが最終回答です。」と述べた。しかし、原告は、「きちんと誠意ある公平配分についての回答をしてください。」と求め、大沢理事は、「管理職も職員であるから他の法人等とレベルを比べた場合に、これ以上削減することは忍びないと考えました。さりとて一般職については、いま回答した以上にプラスすることはとてもできないと判断しております。二・六五か月を二・七か月にするということが精一杯の努力だったということです。そのように理解していただきたいと思います。努力の限界であると思っておりますので、その点を了承していただきたいと思います。」と述べた。しかし、原告は、「どうしてこのような回答になるのか。」と質問し、これに対し、大沢理事は、「それは、前から言っているように、結局、基準外支出について非常に厳しく要請がきているということに尽きると思います。」と述べた。原告は、「ただ、それは配分の問題ですから労使で決める問題ですよね。基準をどう扱うとか、どういうことだとかは労使でやっていくものではないですか。」と主張した。また、管理職については基準の二・五か月を割っているため他法人と比べて最低レベルにあると思うとの研究所の説明に対し、原告は、その基準に研究所は「役職手当」(本給の二〇パーセント)を含めているが、その含め方については法人によって異なるので単純には他法人と比較できない旨主張した。右大沢理事の発言に対する原告の「そうするとこれは財源の問題ではないのですか。昔なら財源がないという話がさかんに聞かれたわけだが、今回の要請というのはそういう話ではないわけですか。」と質問したのに対し、大沢理事は、「支給率の問題です。」と述べた。
原告は、「管理職はなぜ削減されないのか。」との質問を改めて行ったが、これについて、杉本総務部次長は、「削減される対象のものがないからです。」と述べた。これに対し、原告が「そんなことはないでしょう。基準内というものについては何も基礎がない。予算の基礎になっているのは分かりますが。要請というものは配分交渉まで規制するのですか。」と質問したところ、杉本総務部次長は、「ともかく、我々が受けてきた説明については既に皆さんに話してあるとおりであって、我々としては与えられた条件で交渉するしかないと思っています。」「直接答えになるかどうか分からないが、ともかく閣議了解の要請というのは研究所としては尊重せざるを得ない。」と述べ、大沢理事は、「配分交渉が自主的な判断であることは間違いないでしょう。」と述べた。
原告は、支給総枠が「他法人並みになったということはそれなりに評価します。遅れた理由についてはまだきちんとした理由を聞かされていないけれども、努力したことについてはそれなりに分かります。しかし、公平配分の問題についてそうかたくなに拒否している理由については全く分からない。」と主張し、公平配分の問題について検討するよう研究所に求めた。交渉は午後五時五分から休憩に入り、午後六時三〇分に再開された。冒頭、大沢理事は、「いろいろ議論し、検討してみましたが、回答は変えられません。今はそういうことです。」と述べた。
午後六時三五分に再び交渉は中断し、午後七時三〇分に再開されたが、冒頭、大沢理事は、「一切、これを譲歩するつもりは今のところありません。」と述べた。これに対し、原告は、「当初から言っているようにその回答ではとてものめません。」と主張した。
原告は、一般職の回答についてA方式で回答するよう求めた。また、A方式の回答に改められないとしても、公平配分の議論をする上で必要なのでA方式の算式を提示するよう求めたが、杉本総務部次長は、「データを既に渡してあるのだから原告の方でできるのではないですか。」「計算していないです。」と述べ、これに応じなかった。
原告は、A方式への換算を重ねて求めたが、大沢理事は、「この時点にきているから私は最終だと言っているのです。」「再検討をお願いします。打ち切らせてもらいます。」と述べ、この日の交渉は終了した。
12 第七回団体交渉までの経緯
(証拠上の認定事実)
研究所は原告に対し、同年一二月一九日、左記の内容の「昭和五五年度年末手当について」(五五特一五号)と題する書面を交付した。(<証拠略>)
記
研究所は、特殊法人をとりまく厳しい社会情勢の中で、一般職については限度一杯に努力した最終回答を一二月一八日の団交で述べるとともに、五五特一四号文書回答を行い受諾を要望した。これに対し、原告は、一般職二・七五四月については研究所の努力を評価しながらも、これを交渉のスタートとすると述べ、さらに管理職を削り一般職に上乗せせよという公平配分を要求した。研究所は、原告の要求について研究所の考え方を説明したが、再度研究所の態度を別紙のとおり明らかにするとともに原告に対し、研究所の最終回答を受諾するよう重ねて申し入れる。研究所は原告に対し、研究所の最終回答の諾否について本日午後五時までに文書回答するよう申し入れる。
(別紙)
補足説明
1 原告の要求は、一時金を切り下げず従来どおり支給せよ、一般職・管理職公平に支給せよ(結局、管理職を削り、一般職に上積みせよ)、というものであり、その根拠として、従来、期末手当については一般職と管理職とで公平に配分するという労使慣行があったと主張している。
2 研究所の考え方について
右記原告要求・主張に対する研究所の態度については昨年末手当交渉以降、各期の交渉で説明し、今回の年末手当交渉でも説明してきたが、再度、研究所の考え方を明らかにする。
(1) 特殊法人の給与の財源は国民の税金である。しかるに期末手当すなわち賞与について特殊法人においては、支給基準外にプラスアルファが支出されている実態が明らかとなり、国民世論の厳しい批判を招いた。その結果、昭和五四年一〇月二三日の閣議了解となって賞与の基準外支出いわゆるプラスアルファの是正が要請され、今回の年末手当についても重ねて要請がきている。
(2) 研究所の予算は、国会によって決定された国の予算に基づき政府より認可されている。ちなみに研究所の期末手当については給与規程上および認可予算上の定めがあり、積算基礎は基準内給与であって、昭和五五年度の場合は国家公務員同様年間四・九か月(夏一・九か月、年末二・五か月、年度末〇・五か月)が認められている。閣議了解に基づく是正の対象は、基準外支給部分いわゆるプラスアルファであり、従来支給されていたプラスアルファが削減される。研究所の場合、従来管理職には、一般職のようにプラスアルファは支給しておらず、したがって、従来支給されていた一般職のプラスアルファについて是正せざるを得ず、従来どおり支給せよという原告の要求については応じられない。
(3) 原告は、期末手当に関し永年にわたり一般職と管理職とで公平に配分するという労使慣行があったと主張するが、<1>従来の期末手当交渉は、主として一般職に上積みするプラスアルファをいくらにするかということであって一般職と管理職とで同等に配分するというものではなかった、<2>原告が要求した、管理職を含む全職員同一算式についても研究所は認めなかった、以上のことからも研究所は原告の主張は認められない。
(4) 原告は、今回の年末手当交渉においても、一般職と管理職とを公平に支給(結局、管理職を削除(ママ)し、一般職に上積み)せよと要求しているが、従来一般職については、主として欠員財源の操作により支給基準のほかにプラスアルファを支給してきたのに対し、管理職については研究推進上なるべく欠員を少なくするためプラスアルファを遠慮してもらい、ほぼ支給基準の範囲内で支給してきた。管理職に対しては、昨年末手当において従来の支給算式のうち定額部分を切った結果、支給基準二・五か月を割ることとなり、その結果、他法人比較において最低レベルとなったが、今回も昨年と同様になっており、これ以上負担はかけられず、管理職を削減せよという原告の要求には応じられない。
(5) 原告は、一般職に対する期末手当の削減の結果、従来の一般職と管理職との差が拡大すると主張しているが、プラスアルファ部分の是正の結果生じたものであり、やむを得ないものと考える。
3 研究所の最終回答について
(1) 研究所は、特殊法人をとりまく厳しい情勢の中で、一般職については激変緩和措置をとる努力を限度一杯に行い、支給基準二・五か月を〇・二五四か月分超過した二・七五四か月として、他法人レベルを満たしたものである。なお、回答による一般職の平均支給額は、約六九万二〇〇〇円であり、ちなみに国家公務員と比較すると一般行政職の平均支給額は二・五か月分の四五万五〇〇〇円であり、回答は約二三万七〇〇〇円高額となるものである(平均年齢双方とも約三九歳)。
(2) これに対し、副主任等については、支給基準二・五か月を割った二・四七九としており、一般職について考慮した一・〇二の乗率も適用していない。これは他法人に比し最低レベルにある。すなわち、プラスアルファ分が全くないどころか最少(ママ)限度保障すべき二・五か月を割っているものから、さらに削ることはできない。
4 以上研究所が述べたところを充分理解ねがい、特殊法人の置かれた立場も考慮のうえ、組合として研究所の最終回答を受諾するよう要望する。
右に対し原告は、同月一九日、右文書の研究所の主張は認められない旨主張した「返上書」を研究所に交付した。
13 第七回団体交渉の経緯
研究所原(ママ)告との第七回の団体交渉は同月一九日午後一時五〇分から午後一〇時三〇分まで行われた。
団体交渉の冒頭、原告は研究所に対し、「年内に支給するためにはどうするか、真剣に考えましょう。その点は異論ないですね。お互い努力しようということです。」と研究所に対して確認を求めた。これに対し、大沢理事は、「あなたの言っている努力しようという意味は、更に何かを一般職に上積みしろとか、約束させようということならば、私ははっきりお断りしておきます。私は、いま以上のことはできませんから。」「譲り合う余地がないということで私は申し上げている。それでもおたくの方がどうしても開けというから私は一応席に臨んだだけです。」と述べた。また、大沢理事は、原告の「今回の研究所の措置は『激変緩和措置』ということだが、将来にわたっても削減していく予定なのか。」との問いに対し、「それは予測できない。仮定の話で何らかの約束をすることはできません。」と述べるとともに、一般職のみ削減される理由に関し、「基準外の、いわゆるプラスアルファというものが非常に厳しい目で見られているというのは社会情勢ですから。」、「管理職には社会から批判されるようなものは付いていません。」「プラスアルファの支出を慎めという強い要請は至極妥当なものだと判断しております。」と述べた。そこで、原告が、「まとめるつもりなのでしょう、これ。」と述べたのに対し、大沢理事は、「まとめるための努力は精一杯行ってきたと思っています。」、「努力にも限界がありますから。」と述べた。
原告は、配分交渉に応じること及びA方式への換算を改めて求めてきたが、大沢理事は、「そういう話は済んでいますからしません。」「きちんと計算できるデータはさし上げているのですから。」と述べた。これに対し原告は、管理職についてのデータはもらっていないので、管理職についての削減状況がわからないとしてこのデータの提示を求めたが、研究所は応じなかった。
そして、研究所は、再三「譲歩する余地」のない旨表明した。原告は、「原告がこれから出す一切の提案について聞く耳はないのですか。」との質問をした。これに対して大沢理事は、「私は最初からこれ以上譲歩できないと申し上げている。」と述べるとともに、「例えば五〇〇〇円又は六〇〇〇円の上積みは可能か。」との原告の提案について、「それにはもう答えてあります。」と述べた。
これに対し原告は、「これ以上譲歩できない。」とする根拠、例えば給与財源の残額、管理職の人数等を具体的に数字をもって提示するよう求めたが、杉本総務部次長は、「従来、そのような説明はしていません。」と述べた。また、原告が研究所に対し、独自に計算したA方式を引いて「A方式で計算すれば月数が減るのでしょう。二・四三七か月になるのです。この数字は間違いないですね。」と確認を求めたところ、杉本総務部次長は「こちらは計算していませんからどうとも言えません。」と述べた。
原告は、「まあ、言っておきましょう。」と述べた後、本件四項目要求を検討するよう求めた。原告は、休憩を提案し、交渉は午後二時から休憩に入った。その際、大沢理事は、「一応検討してみます。しかし、期待されても困ります。」と述べた。これに対し、鵜沢委員長は、「こちらも、それなりに柔軟に対応するということは先程から言っていますが、今でもその態度ですから、まとめて年内支給したい。」と述べた。交渉は午後三時から休憩に入った。
午後四時に交渉が再開されたが、冒頭、大沢理事は、本件四項目要求について次のとおり回答した。「ぎりぎりの段階ということで理事長とも相談し、各理事とも話合いをし、検討した結果、遺憾ながら四つの条件はいずれものめません。その理由は、まず一番目のプラス一万円ということについては基準外支出、いわゆるプラスアルファをこれ以上出すことはできないという判断です。二番目の管理職を削減しろということについては従来どおりの説明でできません。三番目の一般職のみ完全週休制にすることについては現在の厳しい状況下では特殊法人の姿勢としてはできないと判断しました。四番目については我々としては責任をもって約束することはできない。」と述べた。これに対し原告は、「本件四項目要求に対する研究所の回答は金額の問題として出せないということか。」との質問をしたところ、大沢理事は、「数字の交渉をする余地がないということです。」「今回の期末手当に関しては、要するに支給率ということが厳しい条件下にあったということです。ですから、金の有る無しということではないのだということは団交の席上はっきり申し上げてある。研究所としては一貫して支給率二・七五四か月ということまでで、それ以上出せる判断がないということです。」と述べた。
なお、昭和五五年度予算のうち職員給与費については、同年度末時点において、約一七〇〇万円の残額があった。
原告は、「これ以上出せない。」とする根拠を示すよう求めた。また、配分交渉に応ずるよう改めて求めたが、大沢理事は、結局、「それでは諾否を待ちます。私の方で打ち切らせてもらいます。」との大沢理事の発言を機に、午後四時一五分、交渉は中断した。
午後一〇時に交渉は再開されたが、冒頭、大沢理事は、「どうにも最終回答以上のものは出ません。この最終回答でなんとか合意してもらえないかということだけです。」と述べた。これに対し原告は、一般職と管理職とが共に在級する五等級二五号棒(ママ)のそれぞれの期末手当の支給額が昭和四一年以降数千円の少差しかなかったのに、昭和五四年度年末手当では二万八〇七四円、今回の本件年末手当の場合は六万三〇一五円という大差が出ていることを黒板に書いて説明した(以下「五等級二五号棒(ママ)比較」という。)。これに対し、大沢理事は、「プラスアルファが年々加算されていったという過程で実際に両者間の差が縮まったことは実態としてはあったかもしれません。しかし、同等にというような方針なりで交渉した覚えはありません。」「プラスアルファを慎めという強い要請があって、少なくとも基準外にプラスアルファを出していることで社会的にいろいろな批判を浴びたということだから、研究所としては慎んでいくより仕方がない。そして、慎んだがために両者間に差が出たということならばそれはやむを得ないと答えるより仕方がないです。」と述べた。
原告は、本件四項目要求に対する回答について研究所に再考を求めたが、大沢理事は、「お答えしたとおりです。」と述べたため、鵜沢委員長は、「それでまとめようというのですか。ずっと続いてきた支給方式を変えてきて、そういう非常な転機に立っているときに。例えば去年の場合、それなりに上(管理職)を削りましたよね。あるいは下(一般職)に上積みをしています。それで協定になっています。今年の場合はそういうことは一切ないのですか。」と質問した。これについて、大沢理事は、「できません。」と述べた。そこで、原告は、「管理職だけ優遇しようということなのか。」と質問したところ、これに対し杉本総務部次長は、「そのようなことはないです。管理職も他の法人と比べれば最低レベルです。」と述べた。これに対し原告は、他法人に比べて管理職も低いという主張を裏付けるデータを示すよう求めたが、杉本総務部次長は、「管理職のデータは出すつもりはありません。」と述べた。そして、大沢理事の「期末手当の交渉は私の方から打ち切ります。」との宣言により、本件年末手当に関する本件団体交渉は終了した。
四 本件団体交渉打ち切り後の経緯
1 同年一二月二〇日(土)
研究所は年末手当を支給するための計算業務を開始した。(争いない)
2 同月二二日(月)
(争いのない事実)
(一) 研究所は原告に対し、午前一〇時四〇分ころ、同月二六日に最終回答により支給する予定であり、したがって、本件年末手当の諾否について同月二三日午後四時までに文書で回答されたい旨通告し、申入れた。(争いない)
右通告及び申入れは「昭和五五年度年末手当について」(五五特一六号)と題する書面を交付することによってなされたのであり、この書面には左記のとおりの記載がなされていた。(<証拠略>)
記
標記に関しては、研究所は原告と交渉を重ね一般職について本年度は激変緩和措置をとる努力を限度一杯に行った下記の最終回答を行い、これを受諾するよう再三申し入れたが、原告は受諾しなかった。
一般職 (本給+家族手当)×二・七月+三万一一〇〇円
副主任等 (本給+家族手当+本給の二パーセント+副主任等手当)×二・五月
(注) 一般職は、基準内給与×二・七五四月(一・〇二×二・七)となるもので支給基準二・五を〇・二五四月超過するものである。副主任等については基準内給与×二・四七九となるもので支給基準二・五を割っているものである。
今回の年末手当については、かなりの非組合員より住宅ローンの返済等越年資金として早急に支給してもらいたい旨の要望が出ており、研究所としては、(ア)年末手当は、その性格上、年内に支給すべきものであり、上記の職員の要望を無視できないこと、(イ)従来(昨年末を除き)、年末手当は、原告と妥結協定に達しなかった場合でも最終回答で、当該支給月には支給してきていること、(ウ)昨年末手当については、原告との交渉で年内に仮払いをした経緯があるが、今回の年末手当については原告は仮払いの交渉はしないと団交で言明したこと、等を総合的に勘案し、職員の利益のため年内に支給せざるを得ないものと考える。研究所は、職員に対し、上記の最終回答で支給率等は従前どおりの扱いで、来る一二月二六日に支給することとした。
なお、組合員に対する支給については、原告が組合員の受け取りに同意すれば、同時に支給することとするが、同意しない場合は、やむなく同日の支給を留保せざるを得ないので、研究所は原告に対し、組合員の受け取りの諾否について一二月二三日午後四時までに文書回答するよう申し入れる。期限までに回答のない場合は、受け取りに同意しないものとして扱うこととする。なお、受け取りに同意しない場合は、組合員については年末手当は銀行振込を停止せざるを得ず、現金払いとなる。組合費については慣例どおり支給総額の一パーセントを給与控除することを付記しておく。
(二) 右通告及び申入れについて、原告は、午前一一時二〇分ころ、研究所の右主張は断じて認められないとして返上書(理労発第二五二四号)を研究所に手渡すとともに、早急に団体交渉に応じるよう求める「団交申し入れ書」(理労発第二五一九号)と題する左記内容の書面を交付した。(<証拠略>)
記
一二月一九日の団体交渉において、大沢理事は、二二時二七分「期末手当交渉は、私の方から打ち切ります。」と発言し、一方的に団交を拒否して席を立ってしまった。原告は、諸物価値上がりにあえぎながら年末を迎えて、一日でも早い手当支給を望み交渉してきたのであるが、貴職らは回答をいたずらに遅延させ、重要な段階で労務担当理事を交替させ、「今少し時間をくれ」を繰り返して一二月八日に至ってしまった。一二月一八日の第二次回答以来、貴職らは、「これが最終回答だ」を繰り返した。一二月一八日夜の団交では、一方的に席を立って、交渉委員全員が帰宅してしまった。一九日の団交においては、ついに前記の発言を行って、自ら団交決裂に至った。しかし、原告は本日に至っても貴職と交渉によって合意に達して早期に期末手当を支給されることを希望している。よって、早急に団交開催日時を連絡されたい。
研究所は原告に対し、午後二時三〇分ころ、「理労発二五一九号申入れ書について「五五特一七号)と題する左記内容の書面を交付した。(<証拠略>)
記
年末手当に関しては、研究所は、特殊法人をとりまく厳しい情勢の中で一般職について限度一杯に努力した最終回答を一二月一八日の団交で述べるとともに文書回答を行い受諾を要望した。ついで、一二月一九日に、原告の要求する管理職を削り一般職に上積みせよという公平配分等について研究所の考え方を再度明らかにした補足説明書を提示し、最終回答を受諾するよう重ねて申し入れ、諾否の回答を求めたが、原告は研究所の申入書を返上してきた。
一二月一九日の団交において、原告は、次の四項目を要求した。
ア さらにプラス一万円を上積み要求する。
イ 管理職を一般職並みに削減せよ。
ウ 一般職のみ出勤の土曜日を休みとせよ。
エ 財政状態が好転したとき、一般職を特に考慮するという確認せよ。
研究所は、右に対し、「アについては、基準外支出いわゆるプラスアルファをこれ以上に出すということはできない。イについては、従来どおりの説明で研究所としてはできない。ウについては、現在の厳しい状況下で特殊法人の姿勢としてできない。エについては、将来を予測して責任をもって約束できない。旨を説明し要求には応じられない」旨を述べた。
以後、原告は上記要求を続けたが、研究所としては限度一杯努力した回答をしたこと、原告の要求、主張について充分に研究所の考え方を説明してきたことなど、誠意をもって対応してきたものであり、譲歩の余地もないので、期末手当交渉を打ち切ったものである。
以上を明らかにして、理労発第二五一九号申入書に対する回答とする。
(三) 原告は研究所に対し、午後二時五〇分ころ、研究所の右文書に対し、研究所が誠意をもって対応してきたとは認められないとして、再度、理労発第二五一九号(<証拠略>)に基づき団体交渉をするように申し入れ、また、午後八時四〇分ころには、交渉事項を、<1>大沢理事による団交拒否事件について、<2>研究所の支給通告について、<3>一二月一九日の団体交渉の持越事項について、<4>その他とし、理事長以下全理事の出席を求める、団体交渉申し入れ書(理労発第二五二六号)を研究所に交付した。(争いない)
(四) 同日、研究所の昭和五六年度予算について、いわゆる大蔵省原案の内示が研究所に対してなされた。(争いない)
3 一二月二三日(火)
(一) 研究所は原告に対し、午後一時二〇分ころ、前日の原告からの団交開催の申入れには応じられない旨回答するとともに、前日と同様の申入れを改めて行った。(争いない)
研究所の右回答と申入れは「理労発二五二六号申入れ書について」(五五特第一八号)と題する、左記の内容の書面を交付することによって行われた。(<証拠略>)
記
研究所は、今回の年末手当について一般職については限度一杯努力した支給基準二・五か月に対し、二・七五四か月という他法人レベルを満たした回答を行った。原告は、一般職二・七五四か月については、研究所の努力を評価すると述べながらも、プラスアルファが全くないどころか、支給基準二・五か月を割っている管理職から、さらに削減し、一般職に上積みせよという従来の要求を続けている。研究所は、一般職に関するデータも提供し、原告に理解を求めるとともに原告の要求、主張についても研究所の考え方を充分説明し誠意をもって対応してきたが、原告が依然として上記の要求を固執したので、研究所として譲歩の余地もなく、また、年末手当の支給時期も考慮し、期末手当交渉を打ち切ったものである。
以上のとおりであり、標記の申入れ書にある団交拒否でもないし、団交において双方了解している持ち越し事項もない。
原告は、年末手当支給に関する研究所の五五特一六号文書を返上しているが、研究所は同文書記載のとおり、一二月二三日午後四時までに組合員の受け取りの諾否について文書回答するよう再度申し入れる。
以上をもって理労発二五二六号申入れ書に対する回答とする。
(二) 右申入れ及び回答に対し、原告は、右文書を研究所が一方的にその主張を述べているにすぎないとしてこれを返上する旨、研究所に対し通告し、同日午後四時から、交渉事項を、ア大沢団交拒否事件について、イ 所発五五特一六号について、ウ 一二月一九日の団体交渉における持越事項について、エ その他とし、理事長以下全理事の出席により団体交渉を行うよう二度にわたって申し入れた。(<証拠略>)
(三) 右申入れに対し研究所は、午後三時一五分ころ、原告に対し、申入れの交渉事項、特に「大沢理事による団交拒否について」では応じられない旨回答した。(争いない)
(四) 原告は研究所に対し、午後四時一五分ころ、団体交渉を行うよう改めて申し入れ(理労発第二五二九号)、交渉日時を一二月二四日午前一一時からと指定した。(争いない)
(五) 同日、科学グループの日本原子力研究所は、同月一八日回答した「(基準内給与)×一・〇二×二・七月」相当で妥結した。これよりさき、動力炉・核燃料開発事業団も、同月一九日に右と同様の回答で妥結した。(争いない)
(六) なお、政労協作成の昭和五六年一月一五日付「政労協」には、政府系特殊法人が、昭和五五年度年末手当について、同年一二月一五日から同月一九日ころにかけて、概ね、基準内給与一・〇二×二・七月で妥結した旨記載されている。(<証拠略>)
4 一二月二四日(水)
(争いのない事実)
研究所は、午前一〇時三〇分ころ、原告に対し、昭和五六年度予算編成業務等で年内は都合がつかず、年内中の団体交渉には応じられない旨回答した。また、研究所は、非組合員には同月二六日に支給するが、組合員については受領の諾否について原告から回答がなかったので同日の支給は保留することとしたが、同月二七日(土)には混乱のない限り組合員にも支給する予定である旨通告した。
原告は、午前一一時四五分ころ、研究所の右回答及び通告を撤回するよう申し入れるとともに、もし撤回しない場合は不当労働行為の救済申立てを行う予定である旨通告した。
右通告に対し研究所は、午後四時一五分ころ、「撤回せよ。」との原告の申入れには応じられない旨回答した。また、団体交渉の開催については昭和五六年の一月に入ってから開催日時、交渉事項等を通知する旨回答した。
研究所は原告に対し、午後四時五〇分ころ、同月二七日に受領するか否かについて同月二五日午前一〇時までに文書で回答するよう申し入れるとともに、所定の日時場所までに回答がない場合には受領に同意しないものとして取り扱う旨通告した。この申入れ及び通告について、原告は午後五時二五分ころ団体交渉を申し入れた。
研究所は、原告が年末手当の受け取りに同意するか文書回答を行うように改めて申入れを行うとともに、団体交渉の申入れに対しては、年内は都合がつかないので、一月に入って開催日時、議題等を原告に通知する旨の回答を行った。これに対し、原告は、午後七時一五分ころ、再び団体交渉の申し入れを行った。
5 一二月二五日(木)
(争いのない事実)
(一) 研究所は原告に対し、午前一〇時二五分、所定の期限までに受領についての同意を得られなかったので、組合員については年内には支給しない旨通告した。
(二) 原告は、同日、埼玉県地方労働委員会に対して本件救済申立てを行った。
五 救済命令申立後の経緯
1 昭和五五年一二月二六日(金)
(争いのない事実)
研究所は非組合員に対し、本件年末手当を支給した。
(証拠上認定した事実)(<証拠略>)
原告は、同日、午前中から指名ストを実施し、研究所の正門でピケをはり、年末手当のための現金が研究所に搬入されるのを阻止しようと試みた。研究所は、職員通用口から現金を搬入したが、組合員がこれに気づき、組合員らが人事課の周りを取り囲んだため、結局、研究所は、現金の支給ができず、同日から翌二七日にかけて、研究所は管理職及び非組合員に対して年末手当を、銀行振込の方法によって支給することとなった。
2 昭和五六年一月七日
(争いのない事実)
原告は研究所に対し、団体交渉を申し入れ、交渉日時を同月八日午後三時からと指定した。交渉事項は、<1>昭和五五年年末手当交渉について、<2>大沢理事による一方的団体交渉打切り事件について、<3>一月五日の理事長挨拶についてであった。右団体交渉には理事長が必ず出席するよう求めた。
3 同月八日
(争いのない事実)
原告は研究所に対し、「本件年末手当について組合役員等一部の者は交渉が妥結するまでは受領を拒否するが、その他の組合員については内金として受領するので同月一〇日に支給せよ。」との通告をした。これについて研究所は、同月一二日、受領を拒否した三〇人余を除く組合員に対して最終回答により、内金でない旨ことわった上で年末手当を支給した。
なお、受領を拒否した三〇人余について、研究所はその後、弁済供託の手続をとった。
4 同月九日
(争いのない事実)
研究所は、前記の団体交渉の申入れについて、同月一六日午後二時から応じる旨回答した。しかし、その後、団体交渉の日時をめぐって双方の都合があわず、当事者間で延べ一六回にわたるやりとりがなされ、結局、同月二三日、再開される運びとなった。
5 同月二三日
(争いのない事実)
午後一時三五分から第八回団体交渉が開かれた。原告は、昭和五五年一二月二五日付の本件救済申立書を読み上げるとともに、研究所に対し、「現時点で何らかの解決策をもっているのか。」との質問をした。これについて、大沢理事は、「年末手当に関しては何等かの譲歩提案は考えていません。」「地労委の判断を待つより仕方がないと思っています。」と述べ、本件年末手当をめぐる交渉は進展をみないまま、他の交渉事項に移り、この日の交渉は終了した。
6 同年二月一三日
(争いのない事実)
午後三時五分から第九回団体交渉が開かれた。この交渉において「話合いによる自主解決の意思があるか。」との原告の問いに対し、大沢理事は、「もちろん基本的には自主的解決ができればいいと思っています。ただ、実際問題として、非常に難しいと判断しています。」と述べ、本件年末手当をめぐる交渉は進展をみないまま、他の交渉事項に移り、この日の交渉は終了した。
7 同月二〇日
(争いのない事実)
同日の団体交渉においても、本件年末手当は交渉事項の一つとして予定されていたが、原告の意向により実際は他の交渉事項についてのみ交渉がなされ、これについての交渉は行われなかった。
8 同年一〇月二七日
(争いのない事実)
同日、本件年末手当を交渉事項として団体交渉が開かれた。この交渉において、「昭和五五年一二月一八日の最終回答を変えるつもりはあるか。」との原告の問いに対し、大沢理事は、「変えるつもりはない。」と述べた。
また、藤原総務部調査役は、「予算単年度主義くらい知っているでしょう。」と述べた。
これに対し、槌田委員長は、「知っています。しかし、追加分を去年の予算で出してくれとは言っていません。今年の予算で出していいです。」「昭和五五年度年末手当については、あなた方が回答を修正し、原告も妥協するという線を探すために交渉を続けましょう。」と述べた。
六 地労委命令後
研究所と原告とは、地労委命令後、本件年末手当について、数回団体交渉を行った。団体交渉に際して、原告は、「本件四項目要求」、とりわけ一項目の一万円の上積みを強く要求したが、研究所は、右の要求には応じられないとし、本件年末手当の最終回答については、地労委命令を踏まえたうえでも、研究所の判断としては、最善の最終回答であると判断しており、右回答につき原告の理解を求めたいと回答し、妥結には至らなかった。(争いない)
七 本件命令の違法性の存否
1 閣議了解及び監督官庁の要請に藉口して誠実な団体交渉を拒否したとの点について
前記認定事実によると、研究所は、本件団体交渉を通じ、これまでの支給実績に考慮を払いながらも、閣議了解の趣旨及び監督官庁の要請に沿った基準で妥結するという基本方針の下で原告との交渉に臨んでいたというのである。
ところで、閣議了解は、政府関係特殊法人の一つである鉄建公団の「不正経理事件」が昭和五四年九月から一〇月にかけて公にされたことが契機となって、鉄建公団にみならず政府関係特殊法人の期末手当の取扱いについて、国民世論の厳しい批判を受けるに及び緊急にこれを是正する必要に迫られてなされたのであって、その趣旨とするところは、期末手当につき、役員及び管理職のうち本部の部長相当職以上の職にある者については国家公務員並みに扱うこと、その他の一般職等については、労使の団体交渉によって決められる場合においても、特殊法人の公共性からくる制約、現下の厳しい経済社会情勢及び国民世論の厳しい批判等を十分認識し、かつ、右役員等に関する取扱いとの均衡にも配慮して、関係者が良識ある態度で交渉に臨み、国民の理解を得られるような結論に到達することを要請したものであって、一般職等の期末手当につき関係当事者の団体交渉権を法的には何ら制約することにならないことは原告の主張するとおりであるとはいえ、関係者は右要請に対応した是正措置に出で(ママ)るべきことは政府関係特殊法人としての性格上当然のことであるといえる。
このようなことから、研究所は、原告との本件団体交渉において、右に述べたような基本方針の下で交渉に臨んでいたというのであって、このことは、その存立基盤が法律及び認可予算に依拠しているという研究所としての立場上から至極当然のことであったといえる。
ところが、期末手当については、従来から原告との労使交渉の結果として、他の特殊法人と同じく、一般職員に対して支給基準を上回るプラスアルファ(基準外支給、いわゆるヤミ給与)の支給がなされてきたところから、これを継続・維持しようとする原告の要求とこれを閣議了解及び監督官庁の要請に沿った対応措置で原告の了解を求めようとした研究所の意図とが対立し抜き差しならなくなってしまったところに本件紛争の根本原因があるといえるのであるが、研究所も原告との右のような対立・緊張関係の発生を未然に防止するための努力をしてきたのであり、このことはそれなりに評価することができ、研究所が原告の主張するように閣議了解及び監督官庁の要請の存在を理由にこれに藉口して本件団体交渉に臨んでいたということは相当ではない。
すなわち、研究所をも含めた各特殊法人は、閣議了解及び監督官庁の要請どおりに基準外の支給を一挙に抑制して国家公務員並みにすることは職員に与える影響が大きく、労働組合も反対していることから、その対応に苦慮し、政法連において激変緩和措置を検討し、毎年度の期末手当につき、昭和五四年一二月以降、その都度、官庁など関係方面と折衝し、政法連において毎年度各期の期末手当の上限の申合わせが行われていたというのであり、このことは、被告も認定・判断しているとおり、使用者としての努力の結果あるいは知恵ともいうことができる。そして、政法連は政労協に対し、右申合わせに係る上限の回答を行い、各特殊法人は、以後これに基づいて各単組に回答を行い、それぞれ団体交渉を行ってきたというのであり、昭和五五年度年末手当についても、政法連は、激変緩和措置として、「基準外のプラスアルファの上限を前年度実績のうち、国家公務員の支給率(基準内給与の二・五か月)を超える部分の二分の一を限度とし、上限を基準内給与の二・七か月とする。」旨の申合わせをしたというのである(原告は、この申合わせの趣旨につき、「二分の一または上限二・七か月」と理解するが、これは正確ではない。)。
このような経緯から、政府関係特殊法人は、右の方針の下で各労組と交渉を行ってきたのであり、研究所も同様であったというのである。
そこで、研究所は、原告との間で、全部で七回の団体交渉を重ね、この過程において、原告に対し、研究所の置かれた状況、本件年末手当算出の根拠などについて再三に亘り説明し、本件第六回団体交渉において本件最終回答を行ったというのであり、研究所のこの最終回答は、基準内給与を積算基礎にして換算すると、副主任等の管理職については、「(基準内給与×二・四七九か月)に相当するものではあったが、一般職については、「(基準内給与)×二・七五四か月(一・〇二×二・七か月)」に相当し、政法連の右申合わせを超え、国家公務員の場合の支給率二・五か月を大幅に超えたものであり、また、他法人に比較しても最高水準であったというのである。この結果、一般職の平均支給額は、六九万二〇〇〇円となり、当時の国家公務員の一般行政職(平均年齢は研究所と同じく約三九歳)の平均二・五か月分の四五万五〇〇〇円、民間の一四〇〇社平均での四九万五〇〇〇円と比較して高額であったというのである。それにもかかわらず、原告は、右最終回答を応諾せず、返ってこれを交渉のスタートなどと発言して研究所としては到底受け入れることのできない本件四項目要求をなしたというのである。
そうすると、研究所と原告との本件年末手当についての本件団体交渉は、本件第七回団体交渉において決裂したということができ、これ以上に研究所にそれについての団体交渉応諾義務を課することは相当ではない。
したがって、この点に関する被告の認定・判断は、当裁判所も相当であると認める。
原告は、本件四項目要求は妥結に至るための要求であり、この要求に対して研究所が冷静に交渉しておれば妥結は容易であった旨主張する。
しかし、原告は、研究所が、右に述べたとおり、第六回団体交渉において最終回答をしたにもかかわらず、第七回団体交渉において本件四項目要求をしたものであって、この要求内容はいずれも当時の研究所の置かれていた状況からみて到底譲歩のできるような内容ではなかったというのであるから、本件四項目要求が原告の主張するように妥結に至るための要求であったなどとは到底いうことができないし、ましてや研究所がさらなる団体交渉を継続することによって妥結することが可能な状況にあったなどともいうことができない。
原告の主張するところは、要するに、研究所が本件四項目要求を受け入れるということの譲歩をしさえすれば妥結が容易であったということに帰し、このことはとりもなおさず原告の立場においてのみの主張であるというべきであって採用できない。
よって、この点に関する原告の主張は理由がない。
なお、被告は、研究所が原告の提示を求めた第四回団体交渉における七等級の現員現給表、第七回団体交渉における給与財源の残額と他法人と比較しての管理職の支給水準(最低レベル)の資料の拒否をもって研究所に誠実性が欠けていたことの証左とするのは酷である旨の判断をし、原告は、この点を非難しているが、この点に関しては当裁判所も被告と同様の判断に立つ。
したがって、この点に関する原告の非難も相当ではない。
2 「公平配分」交渉の拒否について
原告は、研究所は本件団体交渉において、回答を先送りするなどして実質的な交渉に応ぜず、本件団体交渉を時間が迫ったことを理由に「公平配分」交渉に入らないまま一方的に打ち切った旨主張する。
そもそも原告の主張する「公平配分」なるもの自体の意味するところは、期末手当について、同等級同号俸の一般職と管理職との間に支給額において大差が生じないようにするということにあるものと解せられ、本給の下位な職員ほど支給額を若干多くするという原告の主張する「下厚の思想」なるものは「公平配分」の一方法であるというにある。
ところで、研究所にあっては、従前から各期末手当につき支給基準のほかにプラスアルファの支給をなしてきたところ、このプラスアルファの支給分については管理職と比較して一般職により多くなしてきたというのであるから、この点についてみる限りにおいては研究所にあっては原告の主張する「公平配分」ないし「下厚の思想」なるものが実現されてきたかのようである。
しかし、「公平配分」ないし「下厚の思想」とはいっても、被告も正当に認定・判断しているとおり、支給基準外のプラスアルファをもって充てていたというのであるから、各期の団体交渉における、その都度の交渉の結果によるものということができるのであって、このような長年の結果を捉えて原告が主張するように「公平配分」の慣行、または、その存在を無視することのできない「実績があった」などということはできない。
原告は、本件年末手当についての本件団体交渉は「支給枠」と「公平配分」との二つの段階があったのに、研究所は、「支給枠」の回答を遅らせ、原告の要求した「公平配分」交渉に入ることを拒否したことは不当である旨主張する。
なるほど、期末手当に関しては従前と同様に支給率の問題と原告の主張する「公平配分」の問題があったということができ、研究所もこの点を十分に認識していたととぴ(ママ)える。
ところで、原告は研究所に対し、本件第一回団体交渉において、既に原告の主張する「公平配分」の精神で交渉をなすことを要求しており、これに対し、杉本総務部次長が、後日改めて議論する旨答えており、第二回団体交渉においては熊田理事が一般職について基準内給与の二・五か月分の回答をなし、第三回団体交渉において、研究所は、書面によっての第一次回答、すなわち、一般職は(本給+家族手当)×二・六五か月+三万〇五〇〇円、副主任等は(本給+家族手当+本給の二パーセント+副主任手当)×二・五か月との正式回答をなした。そして、第五回団体交渉において大沢理事が原告の主張する「公平配分」については消極的な回答をしており、杉本総務部次長も消極的見解を述べている。第四回団体交渉において、原告は、「削減の問題」と「公平配分」の問題とが重要であり、特に後者の問題さえ要求が満たされれば前者については柔軟に対応する用意がある旨述べ、ボーナスについては「公平配分」をしてきたことを強調した。このような経緯の中で、研究所は、第六回団体交渉において本件最終回答をなしたというのであり、原告から原告の主張する「公平配分」についての回答をしないことの理由を尋ねられた大沢理事は、前回の回答の通りである旨回答し、さらなる原告の追求(ママ)に対し、原告の主張する「公平配分」には応じられない旨回答し、杉本総務部次長も同様の回答をしている。しかしながら、この回答に納得しない原告は、「公平配分」についてさらなる検討をなすことを要求したのに対し大沢理事は、最終回答は変えられない旨及び譲歩の余地のないことの回答をし、そして、第七回団体交渉において大沢理事は、原告が「公平配分」交渉に応じることの要求をしたのに対し、既に交渉は済んでいる旨述べ、再三の譲歩の余地のないことの表明をしたのであり、これにもかかわらず原告は、研究所にとって到底受け入れる余地のない本件四項目要求をなし検討を求めたものの、研究所の譲歩するところとはならず、研究所が本件団体交渉を一方的に打ち切ったというのである。
以上の本件団体交渉の経緯に鑑みると、原告の主張する「公平配分」交渉なるものは、研究所の交渉担当者の原告の主張するような先送り発言はあったものの、本件団体交渉の第一回から第七回までを通じて原告と研究所との共通の問題事項となっていたということができ、このような経緯の中で研究所によって本件最終回答がなされ、原告が「公平配分」交渉を求めても研究所によって拒否され、研究所がこれを受け入れる状況になかったというのであるから、これからさらに、原告の主張する「公平配分」交渉をしたところでいかほどの実質的意義が存したかははなはだ疑問である。
以上のとおりであるから、研究所と原告との本件年末手当についての本件団体交渉は、前述したとおり、研究所の本件最終回答に対する原告の研究所の受け入れることのできない本件四項目要求をなした時点で決裂したということができるから、研究所にこれ以上にさらなる原告の主張する「公平配分」についての団体交渉応諾義務を課することは相当ではない。
よって、この点に関する原告の主張も理由がない。
八 結論
以上説示したところから明らかなとおり、研究所が本件年末手当についての本件団体交渉を正当な理由なく拒んだとはいえず、本件命令は正当である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 林豊 裁判官 三浦隆志 裁判官小佐田潔は転補のため署名捺印できない。裁判長裁判官 林豊)